報告書・議事録

「がん医療水準均てん化*の推進に関する検討会」報告書(案)

概要

Ⅰ はじめに

がん医療における地域格差の要因などについて検討を行い、その是正に向けた具体的方策を提言することを目的として、厚生労働大臣の懇談会として平成16年9月9
日に設置された。以降5回にわたり、関係者からの意見聴取も踏まえた検討を行い、その結果を報告書として取りまとめた。

Ⅱ がん医療の地域格差の考え方

がんの診療に当たっては、闘病の各段階で様々な治療や支援が必要となるため、これらに対応可能で信頼できる医療機関が近隣に存在することが望ましい。このため、
日常の生活圏域レベルすなわち二次医療圏で、がん専門医療機関の診療レベルに応じた役割分担と連携に基づく質の高いがん医療の効率的な提供体制の確立を念頭に、が
ん医療における地域格差の是正方策を検討することが適当である。

Ⅲ 地域格差のデータ

多くの地域がん登録では、欧米先進国と比べ登録の精度が良くないため、そこから得られる5年生存率や罹患率のデータを評価に利用できず、がん医療水準の格差は、限られた府県市でのデータに基づき評価せざるを得ない現状にある。しかしながら、これらのデータからも、施設間、二次医療圏間、都道府県間の各レベルで、がんの診断・治療技術の格差が存在する可能性が読みとれる。

Ⅳ 地域格差を生み出す要因と課題

1.がんの専門医等の育成について

がん治療における化学療法及び放射線療法の重要性が高まる中で、これらに係る高度な知識と技術を持った専門家が特に求められるようになってきており、その効果的な育成のためには、大学の卒前教育、卒後の臨床研修の各段階において、適切な教育・

*がん医療水準の「均てん化」とは、「全国どこでもがんの標準的な専門医療を受けられるよう、医療技術等の格差の是正を図ること」を言う。
研修が行われることが必要である。

2.がんの早期発見に係る体制等の充実

がんを早期に発見するためには、国民が全国のどこに住んでいても精度の高いがん検診を受けられる体制を整える必要があるとともに、検診後の精密検査に確実につなげるため、がん専門医療機関との連携も重要である。
また、がんの診断に関する技術も日進月歩のため、がんの早期発見に係ることが多い一般医の資質の向上が必要である。

3.医療機関の役割分担とネットワーク構築について

がんの医療技術の進歩に伴い、高度の専門性を必要とする医療に加え、緩和医療等がん患者の生活の質を高める医療の提供も求められるようになってきているが、一つの医療機関でさまざまな機能を果たすのは困難であり、医療機関の診療レベルに応じた役割分担と連携により、地域において質の高いがん医療の効率的な提供体制を確保することが重要となっている。

(1)地域における医療機関連携

各都道府県において、以下の課題を踏まえ、地域がん診療拠点病院の整備計画と連携方策を医療計画の中に盛り込むことが必要である。

①地域がん診療拠点病院の整備

我が国に多いがん(肺がん、胃がん、肝がん、大腸がん、乳がん等)について、日常の生活圏域の中で質の高いがん医療を受けることができる体制を確保することを目的として、各都道府県知事が二次医療圏に1ケ所程度を目安に推薦した医療機関につき、厚生労働大臣が適当と認めるものを指定してきており、平成17年1月現在、全国で135施設が指定されているが、地域がん診療拠点病院に対するインセンティブが乏しいこともあり、指定数が0の府県も存在する。また、地域において診療・教育研修・研究の核となっている特定機能病院が、基本的には指定されていない。

②地域がん診療拠点病院の連携
現状では地域がん診療拠点病院間の連携が十分図られておらず、必ずしもがん患者の適切な紹介・逆紹介となっていないことから、地域の実情に応じたがん医療の適切な病病連携及び病診連携を行う必要がある。

(2)全国的な医療機関連携

我が国のがん医療においては、現在3つのがん専門医療機関における連携の仕組み
(地域がん診療拠点病院の全国連絡協議会、全国がん(成人病)センター協議会、がん政策医療ネットワーク)があり、これらの間で連携は必ずしも十分ではない。

4.がん登録制度

がん患者の生存率を計測する院内がん登録は、がん登録の専門的知識を持ったスタッフが不足し、その専任化が進まず、また、標準様式が未だ普及していない等の理由で、我が国では一部の医療機関でしか実施されておらず、実施されている場合にも精度が十分担保されていない。

また、罹患率や生存率を計測する地域がん登録は、現在34府県1市において実施されているものの、医師・医療機関の篤志的な届出に依存しており、患者発生情報の登録漏れが発生しやすいため、罹患率の全国推計値は限られた地域(11府県1市)のデータを用いて推計が行われている現状にあり、更なる精度の向上が必要である。

このため、院内がん登録の専任スタッフの育成及び確保等の支援方策を検討する必要があるほか、地域がん登録事業の推進に向けた、予後調査の負担軽減のための措置等を検討する必要がある。

5.情報の提供・普及

現状では、標準様式に基づく院内がん登録の整備がなされている医療機関は少ないため、全国レベルで比較可能な治療成績のデータは十分に得られていない。このため、医療関係者にとっても、自施設の診療レベルの正確な評価ができておらず、一般国民に対しても医療機関の選択に資する正確な情報の提供が必ずしも十分ではなく、一般国民及び医療関係者それぞれに対し、情報提供の充実のための方策の検討が必要である。

Ⅴ がん医療水準の均てん化に向けての提言

国民が全国のどこに住んでいても、がんの標準的な専門医療を受けられる体制整備に向けた第一歩として、現在の地域がん診療拠点病院をその機能に応じて階層化し、役割分担を明確化するとともに、それを踏まえた診療連携、教育研修等のネットワークを構築するように見直すことを中心的な柱に据え、人材育成に係る課題、医療機関のネットワーク化に係る課題及び情報に係る課題に対し、具体的解決方策を提言する。

1.がんの専門医等の育成について

(1)大学講座の設置

がん診療全般を横断的に見ることのできる化学療法及び放射線療法などを専門とする講座の設置等、教育体制の整備に努める必要がある。

(2)がんの専門医の認定基準

がんの専門医認定に関係する学会等が協力して、専門医の資質を一定以上に保つよう共通の基準を作る必要がある。

(3)がんの専門医の育成方策

特に化学療法及び放射線療法の専門医を育成し、地域がん診療拠点病院に配置することが重要であり、現在の地域がん診療拠点病院制度の見直しによるネットワークを活用して、国立がんセンターを中心とした効果的・効率的な研修を行うことが必要である。それとともに、学会が系統的カリキュラムに基づく教育セミナーを実施し、基本的知識や最新の研究成果の普及を行うことも重要である。

また、国立がんセンター等の研修の円滑な実施や地域がん診療拠点病院に対する指導体制の充実などの観点から、特定機能病院を地域がん診療拠点病院制度に位置付けることが重要である。

(4)がん医療を支えるコメディカルスタッフの育成方策

学会間の連携、学会と職能集団の連携及びがん専門医療機関による統一的なカリキュラムに基づく専門研修を提供することが重要である。

また、以上のようながんの専門医等の育成を着実に推進するため、育成に携わるがん専門医療機関の指導体制の強化方策も検討する必要がある。

2.がんの早期発見に係る体制等の充実

がん検診体制の充実に当たっては、ハードとソフトの両面にわたり全国的に広く体制が整備される必要がある。さらに、いわゆる「がん検診の受けっぱなし」を無くすため、検診後に精密検査が必要な人を地域のがん専門医療機関に確実に受け渡せるよう、検診実施機関等と地域がん診療拠点病院等の間の連携が重要である。また、がん検診の重要性に関し、国民に対する普及啓発を強化する必要がある。

がんの診療技術は日進月歩であるため、がんの早期発見に係る一般医の資質向上が必要であることから、学会や職能団体による取組の強化に加え、地域がん診療拠点病院が一般医に対して研修の機会を積極的に提供することが重要である。

3.医療機関の役割分担とネットワーク構築について

各都道府県は、地域の実情を踏まえた具体的な目標を設定し、その達成に向けたがん医療施設・設備の整備計画と、地域において不足する医療機能について、医療施設の診療レベルに応じた役割分担と連携により確保するための具体的方策を、医療計画の中に盛り込むことが重要である。

(1)地域における医療機関連携

①地域がん診療拠点病院制度の見直し

地域がん診療拠点病院の整備を促進するため、以下の方針で制度を見直すこと
が必要である。

(ア)指定要件をできる限り数値を含めて明確化する。
(イ)地域における診療・教育研修・研究の核となっており、地域がん診療拠点病院に対する指導的な役割などが期待できる特定機能病院を指定の対象に含める。
(ウ)地域がん診療拠点病院を、診療・教育研修・研究・情報発信機能に応じて2段階に階層化(地域がん診療拠点病院、都道府県がん診療拠点病院(仮称))し、役割分担を明確化するとともに、それを踏まえた診療連携、教育研修等のネットワークを構築する。なお、役割分担のイメージは別紙のとおり。
(エ)医療相談室の機能の強化
(オ)緩和医療の充実、医療相談室の充実、診療成績の公表など地域がん診療拠点病院を利用する患者に資する体制の確保を推進するため、診療報酬等のインセンティブが働くよう適切な仕組みを検討する。

②地域がん診療拠点病院ネットワークの構築

新たな地域がん診療拠点病院制度に参加するがん専門医療機関相互の間で、国及び都道府県レベルにおけるネットワークを形成する。(国立がんセンター、都道府県がん診療拠点病院(仮称)、地域がん診療拠点病院)

ネットワークの機能としては、診療、教育研修、院内がん登録、情報、臨床研究に係る機能を持つこととする。また、地域がん診療拠点病院の診療レベルを向上させるため、病理診断や画像診断等に係る診療支援機能も重要である。

こうしたネットワークの構築により、各地域において、治療成績に大きな差が出るような高度の技術を要する治療に当たっては、適切な病病連携、病診連携により当該治療法を専門的に行っているがんの専門医のもとに患者を集約し、必要な治療が済んだ後は、再び病病連携、病診連携により患者の身近な「かかりつけ医」で治療が継続されるよう、連携体制を整えることが可能となる。

(2)全国的な医療機関連携

地域がん診療拠点病院の全国連絡協議会及び都道府県レベルの連絡協義会を設けることが必要である。また、全国がん(成人病)センター協議会及びがん政策医療ネットワークを地域がん診療拠点病院制度と整合性をもって位置付けることが求められる。

4.がん登録制度

標準登録様式に基づく院内がん登録のデータが、少なくとも地域がん診療拠点病院において整備されると、治療成績等の正確な比較が全国的に可能になり、医療関係者にとっても、がん患者にとっても有益であるため、一定の基準を満たす院内がん登録については医療機関に対するインセンティブを検討する。

また、精度の高い院内がん登録データを、地域がん登録事業に提供することにより、地域がん登録事業の精度の飛躍的向上につながることが期待できる。

地域がん登録事業については、その普及を図って行くため、がん登録制度の法律上の位置付けの在り方も検討するとともに、国による地域がん登録事業に対する支援を強化(人口動態統計、住民票照会の利用の円滑化等)することや登録方式の標準化を推進することも重要である。

5.情報の提供・普及

院内がん登録の整備を早急に進め、全国レベルで比較可能な治療成績のデータを整備した上で、一般国民及び医療関係者に対し、正確な情報を提供できるようにすることが重要である。

(1)一般国民に対する正しい情報の提供

全国的に比較可能な診療成績のデータの整備には時間がかかるため、当面は、地域がん診療拠点病院の全国連絡協議会が中心となって相互に比較できるなどわかりやすい提供をすることが必要である。また、がん患者が医療機関を受診する際の参考となるよう地域がん診療拠点病院の標榜を可能とするとともに、患者及びその家族の不安や疑問に適切に対応できるよう、地域がん診療拠点病院等に設けられている医療相談室の機能を強化することが必要である。

(2)医療関係者に対する情報の提供

病病連携及び病診連携を行う際に役立つよう、地域がん診療拠点病院の情報ネットワークを構築する必要がある。

(3)がん情報センター(仮称)の設置

患者に有益な情報発信の一層の強化が求められており、がん情報センター(仮称)の設置の検討も必要である。

Ⅵ おわりに

今回の提言には、専門医等の育成のための研修機会の拡充など短期的に取り組まなければならない課題と、大学の講座設置のように中長期的に取り組まなければならない課題があるが、着手できるものから速やかに取り組んでいく必要がある。

いずれにせよ、我が国において「がん医療水準の均てん化」を一日でも早く達成するためには、がん医療に関わる行政、医療機関、学会などのあらゆるレベルで、「がん医療水準の均てん化」に向けた不断の努力が求められるものである。

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