報告書・議事録

「混合診療」解禁についての当会の考え

現状では、欧米で承認されているがん治療薬が、日本で承認され、通常の保険診療で使えるようになるまでには、数年というタイム・ラグがあります。

インターネットの普及によって、欧米の新薬についての情報が瞬時に入手できるようになった今日、月単位、週単位、日単位でがんと闘っている患者にとっては、人類の医学の成果としての新薬がこの世に存在しているにもかかわらず、それが使えないということほど、耐え難いことはありません。

当会は、基本的には、国民皆保険制度を支持しております。

しかし、こうした新薬を試す機会を、より多くのがん患者に今すぐ与えるためには、緊急避難的に「混合診療」を部分的に解禁していただく方法しかないと考えております。

以下、日本医師会会長が、「混合診療」解禁に関して懸念している点(「日本経済新聞」2004年11月23日付)、これは厚生労働省の見解(11月22日の公開討論での水田保険局長発言)とほぼ同じだと思いますので、これらの「混合診療」解禁反対意見につきまして、当会の考えを述べさせていただきます。

厚生労働省、日本医師会などによる混合診療禁止の根拠

(1)   科学的に根拠のない危険な医療行為を行わせないためである。科学的根拠のない療法は、患者の生命を脅かすだけでなく、適切な医療を受ける機会を損なわせる。

(2)   経済的に自費診療の負担ができない患者の生命が軽んじられて、国民医療の不平等をきたさないためである。相互の助け合いの精神を基盤とする公的医療保険を使用する以上、一部の裕福な人だけが特別な医療を受けられるのは助け合いの精神に反する。

(3)   保険診療に導入すべき医学・医療の進歩による新技術が、自費診療として保険適用外におかれ続けることを防止するためである。

上記意見に対する当会の反論

(1)科学的根拠のない医療行為が行われることには、当会も反対しております。

当会が求めているのは、あくまでアメリカのFDAが承認したがん治療薬についてのみ混合診療を認めてほしいという限定的なものです。

こうした薬剤は、アメリカでの厳しい臨床試験に合格した有効性については科学的根拠のあるものです。

有効性については、今や医学的には、人種差よりも個人差の方が大きいとされております。

問題は、安全性ですが、イレッサ問題でも明らかになったように、厚生労働省の承認薬が、必ずしも安全とは言い切れません。

そもそも薬というものに、完全な安全などありえず、人に使われていくなかで、様々な副作用が分かってくるものです。

そこでアメリカのFDA承認薬も、日本人に対して使用した場合、予想されない副作用を起こす可能性があることも承知しております。

とはいえ、私どもがん患者団体としましては、「危険があるから使わせない」では困りますので、「そうした危険性について、がん治療を専門とする医師との間でインフォームド・コンセントがあった上で、あくまで自己責任のもとで使用を認める」という方向性で、厚生労働省には考えていただきたいのです。

そこで、私どもは、できるだけ副作用死などを減らすために、厚生労働省に対して、「日本では未承認で、他のがん種などでの使用経験のないものについては、承認されるまでの期間、副作用などの全症例調査を製薬会社に求め、安全性の確保に努める」ことを求めます。

(2)   厚生労働省や日本医師会は、現在は国民は平等に、医学の進歩を享受していると考えているのでしょうか?

例えば、当会の佐藤会長のケースを以下にご説明いたします。

佐藤会長は、大腸がんで、これまで日本で承認されている抗がん剤を使って、治療を受けて参りました。

その場合、3割負担で、月20万円ほどだった医療費が、それに加えて、欧米で大腸がんに標準的に使われている抗がん剤「オキサリプラチン」を輸入して使用した場合、薬剤費が月30万円追加されるだけでなく、これまで健康保険が利いていた部分が全て自費になるため、月70万円となり、治療費は合計100万円となる。

通常の治療費 未承認薬代 患者の負担額
通常の保険診療の場合 月20万円(3割負担) 月0円 月20万円
未承認薬を使った場合 月70万円(10割負担) 月30万円 月100万円

つまり、現在でも月100万円払える人は、未承認薬を使った治療を受けることができるが、そうでない人は受けることができないという歴然とした不平等が生じているのです。

当会は、こうした不平等をできるだけ少なくし、一人でも多くの人がこうした科学的根拠のある未承認薬を試すことができる機会を増やすために、薬剤費のみ自己負担とする「混合診療」の解禁を求めているのです。

それが認められた場合、佐藤会長の様なケースの患者の負担は、月50万円となり、解禁前の半額となり、より多くのがん患者が試すことが可能になります。

通常の治療費 未承認薬代 患者の負担額
未承認薬を使った場合(「混合診療」解禁前) 月70万円(10割負担) 月30万円 月100万円
未承認薬を使った場合(「混合診療」解禁後) 月20万円(3割負担) 月30万円 月50万円

もちろん解禁しても、経済的事情によって、未承認薬代が負担できない場合もございます。

そこで、当会は、経済的な事情により、未承認薬の薬剤費を払えない人のために、一定収入以下の人に対しては、救済措置を講じることを厚生労働省に求めます。

いずれにせよ、現在の厚生労働省および日本医師会の考えは、せっかくこの世に、効く可能性のある薬が存在するにも関わらず、「国民医療の不平等をきたさないため」に、皆で使うのを我慢しましょうと言っているとしか思えません。

薬があるのに、使えないのは、がん患者にとっては、耐えられません。

そこで、我々のように、皆が使えるようにするためには、どうするかを考えていただきたいのです。

こう申し上げると、厚生労働省および日本医師会は、科学的根拠のある薬は、承認され保険収載され、国民皆が通常の保険診療で受けられるようにするのが「王道」だと仰います。

当会もその考えに全く異論はございません。

科学的根拠のあるがん治療薬は、いち早く承認し、保険収載することをこ、以下のように、これまで何度も厚生労働大臣等に要請して参りました。

  • 2001年2月27日 坂口力厚生労働大臣(当時)宛てに「抗癌薬および副作用防止薬に関する緊急措置請求書」送付
  • 5月31日 桝屋敬悟労働副大臣(当時)に、「抗癌薬および副作用防止薬の早期一括承認を求める要請書」署名54,514筆を提出。
  • 2002年4月24日 坂口大臣(当時)が当会に対して、「(諸外国の)優秀な薬につきましては、とにかく半年以内に導入する」と約束。
  • 5月29日 坂口大臣(当時)が国会で、「日本で認められていない薬を購入して(それを使うと)、全ての医療行為が保険の適用にならないのは酷過ぎる。至急、認められるようにしたい」と明言。
  • 2003年5月26日 坂口大臣(当時)に、「抗癌剤早期適応拡大の要請書」署名11万9,222筆を提出。
  • 7月14日 中央社会保険医療協議会会長宛てに、未承認または保険適応外の抗癌剤について「私共の願い」を提出。
  • 2004年1月27日 坂口大臣(当時)に、「がん治療に関する要望書」および「オキサリプラチンの優先審査を求める要望書」を提出。

しかし、既に述べましたように、欧米の標準治療薬が日本で承認されるまでには、数年のタイム・ラグがございます。

先ほどのオキサリプラチンは、世界で初めて日本人が合成に成功した化学物質であるにも関わらず、EUで8年前に承認されて以来、全世界で使われ、今ではアジアで使えないのは、日本とモンゴルと北朝鮮のみという状態です。

今年1月、当時の坂口厚生労働大臣に、この薬の早期承認をお願いいたしました。

坂口大臣は、上記の通り、我々の会に対して、「(諸外国の)優秀な薬につきましては、とにかく半年以内に導入する」と断言して下さったこともあり、製薬会社が2月末に承認申請したため、私どもとしては、遅くとも夏までには承認されると期待しておりました。しかし今年中の承認は絶望的となりました。(米は48日で承認)。

この薬も来年には承認されると思いますが、EU承認から8年間に日本で大腸がんで死んだ28万もの人々は、この薬を試すこともできないまま亡くなったのです。

こうしたタイム・ラグが生じる原因には、アメリカと日本との新薬承認体制のマンパワーの違いや、保険制度の違いなど、一朝一夕に解決できない問題があります。

そこで、こうしたタイム・ラグが解消されるまでの「緊急避難的」措置として、当会は、がん治療薬について、混合診療の「部分的」解禁を求めているのです。

そもそも坂口厚生労働大臣ご自身が、上記の通り、国会で、「日本で認められていない薬を購入して(それを使うと)、全ての医療行為が保険の適用にならないのは酷過ぎる。至急、認められるようにしたい」と答弁されたのです。

繰り返しになりますが、当会は、基本的には、科学的根拠のある薬剤は、速やかに承認し、保険収載することを厚生労働省に求めております。

そのため、厚生労働省などが3.で懸念していることは、当会の懸念でもございます。

(3)アメリカのFDAは、「承認すれども、使用法については関知せず」というのが基本的な立場です。

このため、例えば肺癌に承認された抗がん剤が、後に研究の結果、すい臓がんにも効果があると分かった場合、その薬をすい臓がんに使えるかどうかは、アメリカの患者たちが入っている私的保険の額によって決まります。

しかし日本の厚生労働省は、「適応を決めて承認する」ため、上記の薬が例えすい臓がんに効果がある可能性があっても、日本でもう一度すい臓がん患者で臨床試験をし、申請しなければ、すい臓がんには保険適応を拡大しないという方針を長くとってきました。

その結果、厚生労働省の委託で作成された「抗がん剤適正使用ガイドライン」では、科学的根拠があり専門化が使用を推奨している抗がん剤のうち、81ものケースが日本では保険適応されていないことを昨年厚生労働省も国会で認めました。

今年に入り、厚生労働省は、こうした問題を解決するために、「抗がん剤併用療法検討会」を開催し、科学的根拠があり専門化が使用を推奨する抗がん剤の保険適応拡大をす進めて参りましたが、これはあくまで既に日本で承認されている抗がん剤の保険適応拡大に留まっております。

私たちは、こうした科学的根拠のある薬剤の適応拡大は、よりスピーディに、より多く承認し保険収載することを求めます。

そのため、現在の「抗がん剤併用療法検討会」を局長レベルの私的検討会から、恒常的な機関に格上げすることを要望いたします。

それに加えて、日本では未承認のFDA承認薬の使用を混合診療で認めた場合、3.の懸念にあるように、「保険適用外におかれ続ける」ことを防ぐために、当会は、「アメリカでは有効性が立証されているので、製薬会社に対して、日本での申請を促し、早急に承認し、がん患者が一日でも早く通常の保険診療で使えるようにする」ことを厚生労働省に求めます。

最後に、何度も繰り返しますが、当会は日本の皆保険制度を支持します。しかし、命に関わるがんという病気の特性を考慮していただき、「緊急避難的に」混合診療を認めていただくと同時に、科学的根拠のあるがん治療薬が、欧米での承認とタイム・ラグなく日本でも使えるようにするために、新薬承認制度自体の根本的な改革を厚生労働省に求めます。

以上

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