現在、欧米で標準的に使われている抗癌剤のうちのいくつかが日本では、未承認または保険適応外のために使えないという現実があります。
例えば、当会の患者さんの中には、進行性大腸癌を患っている方が何名かおり、5FU+アイソボリン、イリノテカンといった世界の標準治療を行ってきた結果、延命し、現在も元気に生活しておりますが、こうした薬剤もやがて耐性がおとずれ、効かなくなってしまいます。では、その次にどの薬を使うのかということになり、海外のサイトを調べてみますと、ヨーロッパではオキサリプラチンという抗癌剤が標準的に使われていることが分かります。いつ死ぬかも分からないという状況の中では、より効く可能性が高いという科学的根拠のある薬から使いたいと思うのが患者さんたちの共通した気持ちです。
しかし、この薬は日本では未承認のために、薬自身が存在しません。厚生労働省は、医師がその責任においてこうした薬剤を輸入し使用することは禁じておりません。そこで当会の大腸癌の患者さんたちは、医師を説得し、オキサリプラチンを輸入してもらい、治療を受け、効果をあげています。
ところが、こうした未承認薬を使って治療を受ける場合、全く保険が使えない、10割自己負担の自由診療でやらなければなりません。
例えば、Aさんの場合、それまで受けていた治療では、2割負担で月15万円ほどの自己負担ですんでいたものが、自由診療になった場合、10割の75万円になってしまいます。それに未承認の薬剤費25万円が加わり、月に支払う金額は100万円です。Aさんが未承認薬以外に受けている治療は、2割負担の時も10割負担の時も変わりません。しかし、未承認薬を使うというだけで、それまで受けていた同じ治療に、5倍の金額を支払わなければならないのです。
オキサリプラチンは、現在、日本で臨床試験中です。数年後には日本でも承認され、標準治療薬のひとつとなることは、大腸癌の専門医なら誰でも知っていることです。しかし、それまで待てない患者さんたちが大勢いるのです。
そうした患者さんたちは、ヨーロッパでは既に標準治療薬として認められ使われているのだから、日本で承認されるまでの間、過渡的に、未承認薬の薬剤費のみ10割の自己負担で、その他はそれまで通り2割の自己負担とする「混合診療」を認めてくれないかと願っております。もちろん、こうした世界の標準治療薬が早期に日本で承認され、保険で使えるようになることがベストと考えますが、あくまでそれまでの便宜的処置としてできないものかと望んでおります。
アメリカでは、臨床試験に参加できない患者さんも、その薬を使って治療を受けることができるという「パラレル・トラック」というものがあります。翻って、日本では抗癌剤の臨床試験は、非公開が多く、患者さんたちはそれに参加したくても参加できず、ましてや「パラレル・トラック」的制度もありません。
もう使える薬が世界中にないのであれば、あきらめもつきますが、欧米の人には使えて、日本人には使えないということでは納得がいきません。
そこで、再度申し上げますが、欧米で既に標準治療薬として評価を受け、日常的に使われている抗癌剤については、日本でも早期に承認して頂きたいと存じますが、それまでの過渡的な処置として、未承認薬の薬剤費のみ10割の患者負担とし、その他は保険適用するという「混合診療」を厚生労働省にはぜひともご検討頂きたいと存じます。
2002年1月
「癌と共に生きる会」
会長 新山義昭